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神秘の肉
舌の肉(タン)
萩原章史の牛タン料理の流儀
哺乳類の舌は他の筋肉とは違う
舌は心の指示で自由自在に動かせる
味蕾細胞は2週間で生まれ変わる常若で
甘・酸・塩・苦・旨・脂肪の
6種の味を脳に伝える
舌は食べるだけでなく、
声を出すことにも使われる
さらに、愛情の表現や消毒にも使われる
嘘もつく、感動もする、身も滅ぼす、
禍もおこす、肥えもする
舌は変幻自在の神秘な組織
まるで別人格が宿るがごとく
牛・馬・羊・山羊・
鯨(さえずり)・豚
タンはタンの味と癖がある
肉の部位ごとに味や香りや食感が違うのは、その部位の役割が違うから当然だが、ハツ(心臓)とタン(舌)だけは、様々な哺乳類に共通した味と香がある。 何故なら、ハツ(心筋)とタン(舌筋)は、明らかに他の筋肉と立ち位置が違うからだ。
心臓は一瞬も止まることなく、動き続ける唯一の筋肉。瞬発力と持久力を兼ね揃えているから、心筋の味も香りも食感も違うのは必然。ハツは哺乳類だけでなく、魚類(例えば、モウカの星やカツオのちちこ)でも、鳥類(鶏のハツ)でも、両生類(スッポン)でもハツはハツ。
魚類や鳥類は舌の役割が限定的で、哺乳類のように発達していないから比較できないが、哺乳類であれば、舌は心臓同様に共通する独特の癖(味と香りと食感)がある。
舌のほとんどは筋肉
舌は特別な筋肉
舌の筋肉は舌の形を変える内舌筋と舌の位置を動かす外舌筋に分かれる。外舌筋は舌の軟骨と下顎の骨と繋がっているが、内舌筋はどこにも繋がっていないから、前後左右に動かせ、丸めたり伸ばしたりもできる唯一の筋肉。
このフィジカルの変幻自在さと、ひとつの臓器で何役もこなす多能さが、タンの真骨頂。
サルと人以外の哺乳類は指先が器用ではないから、口と舌は大いに活躍する。
哺乳類にとって舌は、心臓などの内臓に次ぐ、重要な役割がある。
それだけ特殊であるが故に、食材として、肉として、特別であるのは当然だ。
焼く・刺身・煮る・しゃぶしゃぶ。
塊・薄切り・厚切り。
どんな料理でも魅力を発揮
豚や山羊や羊のタンは小さいので、料理のバリエーションが限られるが、牛タンの場合、タンの部位(先、付け根、下、真ん中など)で様々な料理ができる。驚くべきは、煮崩れることはなく、破けたり、裂けたりもしないから。様々な料理で存在感を出せる。
焼きにしても、皮に近い固い部分や先の部分は串、タン塩はスライス、真ん中の脂がのった部分は厚切りステーキがうまい!煮る料理は和洋中、どんなジャンルでも素晴らしくなるのがタンの凄いところ。タンの持つ強い個性は料理で消えないから、結果として、個性が生きたタン料理に仕上がる。だから、どんな料理でもタンはタンを感じる。
牛タンでも、豚タンでも、
血統が違えば風味が違う!
黒毛和牛、ジャージー牛、あか牛、短角牛、ホルスタイン、交雑牛など、様々な血統で牛タンの味も違う。基本的に筋肉(赤身)と脂の味だから、肉がうまいブランド牛はタンも美味。但し、多くの和牛のブランド名は内臓肉では名乗れないから、ブランド牛を名乗るタンはほとんどない。
豚は処理場で内臓肉が混じってしまうので、血統の違いを味わうのは限界があるが、輸入豚(イベリコ豚など)はストレートに味わえる。猪のタンも鹿のタンもうまい!
鮮度と処理の良いタンは、強い個性(癖)はあっても、実に味わい深く、タンホリックが生まれるのは必然だ。
私の牛タン料理の流儀
皮付きの場合、鋭利で薄い包丁を駆使して、固い皮を完璧に削ぎ落とし、タンの先を切り落とす。続いてタンの下(筋の多い部分)も切り落とす。真ん中部分を2ブロックに切り分け、面取りして、中心部分をサクの形に切り出す。面取りで切り落とした部分はタン串やタン塩で楽しむ。
サクは分厚いグリルパンでステーキ同様に焼く。猛烈に柔らかいタンの芯を固くしないため、塩は後からする。
かなりレアな状態で厚めに切り分け、グリルパンで「ジュッ」と鳴らして口に放り込む。柔らかくはないけど固くもない!独特の食感。そして猛烈にうまい!芥子醤油もあう!ネギ塩(深谷ねぎの白い部分を薄く切り、少量のニンニクと塩と胡麻油で味付け)もあう!タンステーキと言うより、タン刺し(たたき)に近い。これを店で食べたら相当な勘定になること必定だ。
タン先とタンの付け根はタンシチューも良いが、一番出汁とたっぷりの日本酒と少量の塩と醤油でじっくり煮るのがうまい。このスープがいい!炒めた玉ねぎとキノコとニンジンを足してカレーにしても極上の和風カレーになる。
タンホリックの世界にようこそ
タンは良質なタンパク質と脂質の固まりといっても過言ではない。さらに、ミネラル(特に鉄分)、ビタミンB群が非常に豊富で、パントテン酸の量も多い。
牛タンの場合、100gあたりで318kcal。カルビよりはかなり低カロリーで、モモ肉やヒレ肉よりは高カロリー。そうは言っても、一度に200g食べたら満足だから、そんなにカロリーを気にする必要はない。
様々な哺乳類、様々な血統のタンを味わう世界は奥深い。さらに、様々な料理法があるので、その掛け算は凄い数になる。
1頭に1本しかないタン(舌)だから、簡単に手に入らない(順番待ち、一般入手困難)ものが多い。タンをこよなく愛するタンホリックに
「待った甲斐があった!」と思わせるような企画が私の目指すところ。
日本のタン食文化は歴史が浅い。戦後、GHQ(米軍)が大量の牛を駐留兵のために輸入し、彼らが食べない内臓肉(タンやテールも)が日本人に流れてきたからだ。 アメリカのBBQの源流は 『白人が食べない内臓肉』 を奴隷が食べたことに遡るように、食文化の起源は偶然が多い。偶然は偶然でも、タン食文化は嬉しい偶然だ。
(株)食文化 代表 萩原章史
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