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きっかけは、日本最高の洋食器の酒杯で酒を飲みたい!

2014年7月17日に私(萩原)が大倉陶園を訪ねた際、酒も飲めるという、ミニカップを購入し、その器で酒を飲んだことが、全ての始まりです。

金とプラチナの縁取りがある、二種類のぐい飲みサイズの白磁ですが、
『どうも酒呑みにはしっくりこないな・・』と感じ、
『他にぐっとくる酒杯は作っていないのか?』と思い、大倉陶園に問い合わせをし、オールド大倉を含め、調査した結果、型から制作する他ないという結論になりました。

型からの制作となると、費用も時間も大幅に掛かります。焼きものは焼成過程で変形(縮むのはもちろん)するので、焼き上がりでシェイプも変われば、使い勝手も違うかもしれないし、口当たりも違うし、強度も違ってきます。

結果、重さも違ってくるし、実に多くの試行錯誤をしないと、新しい型を作る事はできません。
過去の酒杯制作記録が少ない上に、有っても、その盃は実用的ではなかったので、デミタスカップの持ち手部分を取るなど、他の用途の器から転用も含め、色々と検討した結果、既存の型では欲しい酒杯は無理との結論から、一から新作を作ることになりました。

こんな思いが、私の頭にはありました。
『洋食のテーブルにマッチする酒杯を、日本最高の洋食器技術で作りたい!』
『それも、嗜む酒ではなく、酒も焼酎もハードリカーもガンガン飲める酒杯が欲しい!』

どうせ作るなら、究極の酒呑みの為の、美しく、かつ実用的で、コレクタブルになるような魅力ある酒杯を作ろう!そんな思いです。

設計して石膏で型を作り、手に持った感覚などを微調整していく地道な作業

本当の酒呑みのための理想の酒杯を求めて、試行錯誤を繰り返す

大倉陶園の創業者の大倉和親は、実用食器の主眼を四つあげています。

一、美観であること(装飾物ではない)
二、清浄なこと(汚れっぽくてはいけない)
三、使い途にあっていること(日常生活に役立てば、必ず喜ばれる)
四、堅固なこと(強くなければいけない)

この基本に照らし合わせると、私の主眼はこうなります。

一、美しくなければいけない。それも実際に使える酒杯として。
二、地はもちろん白磁、様々な飲み物を楽しめる清廉な白が良い。
三、酔っぱらいに付き合っても飽きられない、そして酔わせてくれる酒杯。
四、倒れ難い。仮に倒れたり、テーブル上で落としたくらいでは割れにくい酒杯。

自他ともに認める酒飲みの私としては、日常的に使える酒杯が欲しいのであって、儀礼的な用途の酒杯は要らないのです。
先ず、酔っぱらいは手元が危うくなります。だから、酒杯の安定感は重要です。

酒杯をテーブルに置いている時の安定感
酒杯を持っている指や手のひらとの相性というか、しっくり感

この2つの安定感と美しさを両立し、さらに、酒呑みにとって器に入る酒量にこだわります。酒杯であるから、すぐに飲み干し、何度も注がないとならない小容量の酒杯は、酒呑みの性で使いたくないです。
結局、今回の酒杯は70ccです。こぼれない感じで注いで三杯飲むと約一合です。七〜八杯で『こなから※四分の一升』です。
毎日の晩酌であれば、十杯はちょっと飲み過ぎ!そんな酒杯です。

先ずは萩原が一番美味しいと思うワタリガニの写真をリサーチ

今回の新しい酒杯を一から制作するにあたり、私が決めた事があります。
『毎年、干支に因んだデザインで新作を作る!』です。

2年すればペアになり、3年すればトリオになります。何種類もの美しくて、洒落っ気がある酒杯があれば、それだけで酒宴は楽しくなります。
また、毎年の贈物としても魅力あるし、自分の人生の歩みの一部にしたいという想いもあります。第1回の平成28年モデルは申がテーマです。
ただ、申ではデザイン的に食欲をそそらないので、悩んだ末、蟹にしました。
それも私が一番好きな蟹、食べ飽きがこない渡り蟹。それも冬から初春に掛けての子持ちのメスがイメージです。申と蟹という組合せです。

大倉陶園のホワイトに岡染め技法で浮き上がるメスの渡り蟹。食通なら納得のシズル感ある渡り蟹だと思います。

デザイナー伊藤康行氏による生き生きとした蟹の画。見事です!

大倉陶園の酒器担当のデザイナー 伊藤康行氏のコメント

今回の絵柄の技術 岡染めについて

岡染めで絵を描く場合、ぼけあしを考え、よりコントラストを強調した絵に仕上げます。
蟹を描く際に気をつけたことは、お酒をより美味しく頂けるよう、酒杯と一体となるシンプルで、岡染めのぼけあしを生かした、柔らかく自然な絵に仕上げようと心掛けたことです。
無駄を一切なくし、たった一杯の蟹を蟹らしい動きのあるポーズで描き、白の余白に空間を演出しました。

形状について

酒杯の形状は、限界まで絞った緊張感のある腰に、直線的でシンプルなフォルムにすることで、日本酒だけでなく様々な種類のお酒でも楽しめるように考えました。
試作段階では、口当たりの良い薄さにするために、泥漿の鋳込み時間を変えたテストを繰り返し行い、程良い生地の厚みになるよう研究しました。

大倉陶園は1919年、大倉孫兵衛、和親親子により創業されました。
「良きが上にも良き物をつくりて」という創業の理念は、現在に至るまで受け継がれ、私共の社是となっております。
今回ご紹介いたします酒杯も創業者の世界最高級の磁器を追及するという理念のもと制作させて頂きました。この酒杯を制作するにあたり、食文化様における理念や姿勢は私共と共通すると認識させていただいており、この作品を皆様にご紹介出来る機会を得ました事を心より感謝申し上げます。

株式会社 大倉陶園

流し込み成形

排泥後、すぐに回転させてムラを防ぐ。
その後、一定時間乾燥させる

カツラ(余分な部分)を切り落とす

縁を整え、厚さを確認

乾燥後の成形の仕上げ。バリを取り、
縁を薄く綺麗に仕上げる

全体を滑らかに整える

再度、縁の厚さを確認

底を滑らかに整える

俺だけの酒杯 イニシャルなども入れられる!

干支の酒杯、白磁酒杯「高台金仕様」には、イニシャルや名前などの文字を入れることも承ります。

記念の酒杯もできちゃう
創業記念 米寿の祝い 結婚記念にも

白磁酒杯「高台金仕様」の型をベースに、オーダーメードの酒杯を制作することも承ります。オーダーメードの数とデザインの難易度で価格は変動しますが、納期は3ヶ月程度で、1盃あたりの追加予算は2,000円〜5,000円が目安となります。
お問い合わせはこちらから support@umai-mon.com

12年のシリーズでコレクタブルを目指す

今回の酒杯は酒呑みの飲みを満たす為のプロジェクトと言えます。
そして、目指すは一流の酒呑みが使う酒杯です。一流の意味は高いとか安いとかではなく、酒をこよなく愛する人間が、手元に置きたいと思うコレクションを目指す意図です。

12年後には12客が入る専用桐箱を作り、そこに酒杯を納めて完成になる予定です。お客様の手元でたくさんの酒を満たし、やがては『俺が使った酒杯だから価値有るぞ!』と、子々孫々まで伝えられるような酒杯にしたいです。

㈱食文化 代表取締役 萩原章史

萩原章史プロデュース 大倉陶園作「干支の酒杯 申年」
高さ80mm、口径55mm、満水容量:70cc