黒毛和種のルーツ
最古の血統「竹の谷蔓牛」を再現
竹の谷Laboの「蔓牛」
- Aged alive 生きたまま熟成した 濃厚な味わいが凄い!
岡山に現存する日本最古の血統牛です
古来から日本において、牛は農耕や運搬などの役畜でした。
その頃は食べることが目的ではないので、“体格が良くて丈夫”、“大人しく利口”、“繁殖能力が高い”
といった特徴を持つものが優良な牛とされていました。
これが強く遺伝するよう固定化したのが「蔓牛」です。
例えるなら重量級の力持ちを大量に輩出できる血筋集団、といったところです。
中でも岡山県新見市に存在した最古の蔓が「竹の谷蔓牛」です。
竹の谷Laboという岡山の農家集団がこれを再現する取り組みを行っています。
今のところ年1〜2頭と一般入手困難。驚くほど旨みの濃い肉です。
サシが入りにくく赤身が発達しやすい特性あり
成長曲線にあわせ、ゆっくりじっくり肥育し旨みを引き上げる
今回ご用意したのは、月齢79ヶ月の経産牛です。所謂、経産牛よりは比較的若いため、肉質はほどよく噛み応えがあり、未経産牛よりも味が濃いのが特徴です。さらに、竹の谷Laboでは、肥育期間を長くとることも特徴です。経産牛の肥育が一般的に6〜9ケ月ほどと短いところ、18ケ月にすることで、牛の成長速度に合わせてじっくりと育てています。その分餌代がかかりますが、自家製飼料を活用するなど工夫をし、肉の美味しさを最大限引き出す育て方をしています。旨みや香りが良く、筋肉が発達し、頑強な体で荷物を運んでいた和牛のルーツを感じさせる味に仕上がっています。
山間の湧き水もおいしい肉作りに欠かせない要素です。湧き水にはミネラル成分や二酸化炭素、ケイ酸を適度に含まれ、これが肉質に大きく影響します。風土産物であるとの考えから、土地の力を信じ、春〜秋は千屋で自生した草を岡山県産の乾燥稲わらと混ぜて与えています。
蔓牛の発展に貢献した、岡山県新見市千屋地区
日本で本格的な和牛生産が始まったのは江戸時代後期。遺伝の仕組みも分からなかった時代。西洋から系統的育種法が日本へもたらされる以前に、現在主流の育種学そのものの手法が確立されました。
農民達が和牛の蔓の系統を維持できたのは、牛を増やし売ることで村の暮らしを豊かにしようと、地域の発展を思い資力を尽くした豪農達の利他の精神によってなし得た大事業です。
中でも最古と言われるのが「竹の谷蔓牛」です。安永1772年頃、浪花元助が良牛を買い集め、天保1830年に4歳で体高4尺2寸(127.3cm)と骨格優美、良牛を多数生産する「竹の谷牛」が名を馳せることとなりました。(詳細はこちらから)
選別された牡を計画交配させ、体高良く長命連産な良い牝牛を得て、近親繁殖により優良形質を固定させ系統を造成させることに成功したのです。
戻し交配で竹の谷蔓牛の形質を再現
表現型(見た目)で判別する”蔓らしさ”とは
明治以降、国が海外品種と掛け合わせを奨励し、全国で交雑が進みました。さらに1960年代に入ると現在の格付け制度が導入されて以降は、早熟で歩留まりの良い霜降り牛が現在の主流です。山深い環境と、蔓への誇りがあったこの地では、明治以降の海外血統との掛け合わせを拒みました。
しかし影響がゼロであったわけではありません。そこで蔓に近づけるための技術が施されました。「戻し交配」です。
子の「表現型(見た目)」で、狙う遺伝子を受け継いだかを確認する手法です。
竹の谷蔓牛の特性は
● 角は「い」型で先端が上向き内湾、先端黒、中心水青、根本飴色
● 横から見た牛のフレームは長方形で腹に厚みがあること
● 躯体から伸びる長い脚、荷役に役立つ足腰の強さ
※その他、性格温厚、長命、多産など
種類にもよりますが、動物の場合10〜20回の戻し交配により99%同じ遺伝子に置換が可能。この技術自体は植物の品種改良にも使われています。
【こちらもお勧め】養生食いが許されていた岡山県津山の食文化
「そずり」「干し肉」は
郷愁を呼び起こす
天武4年(675年)の肉食禁止令の発布以降、1200年にもわたり(明治4年まで)、日本人は農耕に大きな役割を担う家畜の牛馬を食べられませんでした。
しかし、津山は特例で養生食いが許された類稀なる地。古くから山陽と山陰を結ぶ交通の要衝であったこと、古くは705年には既に”牛の市”が開かれていた経緯が関係するのでしょう。
津山ならではの肉食文化「そずり」「干し肉」もご用意しました。
牛肉がまだまだ贅沢品であった昭和世代に、どこか懐かしさと噛みしめる喜びを呼び起こしてくれます。
トリミングしていませんので、ご自宅で成形をお願いします
今回の牛は肥育期間を長くとり、肉を成熟させ美味しさを最大限に引き出したものです。 食肉加工後、脱水工程は踏まず、すぐにカットしています。
一般的に牛は食肉加工場で、解体後に吊るして白い布を巻き水分を抜いて枯らす工程がはいります。それを肉屋が買付け、さらに細かく切り分け、脱水します。ですので、今回のお肉はドリップが出やすい状態です。また、肥育期間が長い分コストがかかるため、トリミングを最小限にしております。
袋から出したら食べる分だけ切り出して常温に置き、ペーパーでドリップを拭き、焼く際には火を通しすぎないこと、これに尽きます。 月齢が長い分筋は強いので、外すか切れ目を入れてください。成型時の端材は別の料理で召し上がるなどがお勧めです。
本来の和牛の魅力は
“旨い赤身”にあり
とても味が濃く驚かれると思います。ここからウェットエイジングでも行ったら果たしてどう化けるのか…。
現在の霜降り重視の格付け制度では表現しきれない「肉の味の旨さで勝負できる牛」です。悠久の歴史に思いを馳せ、日本最古の蔓の肉質と旨みの強さを味わっていただきたいと思います。
文・(株)食文化 川口