日本屈指の急流は、非常に複雑な海底と、365日24時間、変化し続ける潮流の海。その激しい海は、極めて上質な魚介類を育む豊穣の海でもあります。
ただし、変幻自在な海を自由に動き回る操船と網を操る技術、さらに、そこに生きる魚たちを熟知しなければ、漁をする事はできません。
私が訪ねた藤本純一は、そんな能島城周辺を遊び場として育った、まさに生まれながらにして、村上水軍本拠地の海の漁師です。
藤本家は4代続く宮窪の漁師。
4代目の純一は3歳で釣りを始め、2015年現在32歳。既に釣り歴、何と30年近くです。この男は何と5隻の船を使い分け、自らの縄張りのような海から、最高の海の幸を水揚げします。そして凄いのは、藤本純一の活け締めと神経抜きの技術です。
曾祖父の代に宮窪に移り住み、漁業を始めてから数えて4代目の藤本純一は、3歳になる頃には魚を釣っていたそうです。
小さい頃から、祖父、父と共に出漁し、物心ついた頃には、漁師になると決めていた、まさに、生まれながらの漁師です。
学校が休みの日曜には漁に行けるので、毎週、それが楽しみだったと語る男は、もちろん、今でも漁が大好きです。
仕事でありながら、ここまで探求研究できるのは、漁師であること自体が、楽しくて仕方がないからに他なりません。
まさに、漁師が天職と言える、若い漁師が藤本純一です。
ゴチ網で主に鯛、黒鯛、スズキ、ウマズラハギを獲る船が1隻
タコ壺漁、カゴ漁で主にタコ、キジハタ、ホゴを獲る船が1隻
潜水漁で主にサザエ、アワビ、ナマコ、ウニを獲る船が1隻
獲った魚を活かしておく為の、生け簀用の船が2隻
漁の手法別に5隻の船を操り、獲った魚を落ち着かせ、
漁で溜まった疲労物質(乳酸など)を解消させる為に2隻。
合計7隻が、藤本家が能島城周辺にくり出す戦舟です。
目の前で活け締めされ、神経〆された真鯛と
アオリイカを食べさせてもらいました。
魚の臭さは皆無で、驚くほど透き通った
味わいで、逆に熟成を加えなければ、魅力は
発揮されないのではないか?と思うほどです。
雑味がないから、料理人はこれを好きなように
できるから、きっと嬉しいのだと思います。
さらに、この完璧な処理をした真鯛をシンプルにスモークしたスモークスナッパーは、燻製というより、ギリギリ火が通った、美味しくて、焦げ目がない焼き魚といった印象です。
鮮魚の真鯛は調理できなくとも、このスモークスナッパーで、藤本純一の究極の真鯛は味わえます。
村上水軍の本拠地で育った、最強の真鯛は屈強な肉体の持ち主で、その身は際立ってうまいです。
魚は生臭いと言う人間に是非とも食べさせたい、究極の魚が藤本純一の魚です。
次はたこ壷漁とサザエやウニの潜水漁の時に訪ねるつもりです。
何度も会いたいと思うほど、実に藤本純一は面白く、海と魚に詳しい男です。ある意味、変人の域に足を踏み入れた男かもしれませんが、これほどまでにこだわる男は、漁師の世界に限らず、とても珍しいのは間違いないです。
こんな素晴らしい真鯛を神様にお供えすれば、きっと神様がお喜びになるのは間違いないです。
昔、『食品の三尊』という言葉がありました。三尊とは、禽鳥の王である鶴、川魚の王である鯉、そして海魚の王である鯛です。鶴(丹頂)は食べてはいけないです。天然の昔ながらの真鯉も激減しています。唯一、三尊で食べられるのは真鯛です。
腐っても鯛、海老で鯛を釣る、そんな言葉があるほど、鯛は日本人にとって格別な価値ある魚なのです。藤本純一の鯛はその中でも別格の最高の鯛です。
(株)食文化 代表 萩原章史