日没とともに急激に冷え込む園地が
美味しいりんごを育む!
岩手県盛岡市
山口久昭さんのりんご
山口久昭さんは大正時代から続く、りんご専業農家の3代目。盛岡市の西端に位置する山際が山口さんの園地です。
ご自分で持つ4haの広い園地に加え、後継者不足で管理が出来なくなった園地を3haほど委託されています。合計7haの広大な土地をご家族4名で栽培しています。
すぐ後ろが山で、この日の撮影では14時50分には太陽が沈みました。この環境が、素晴らしく引き締まった、糖度の高いりんごを育みます。
2024年11月25日撮影
朝日を早く浴びて、14時50分には
日没する園地
昼夜の寒暖差でりんごは美味しく
なります。
当日は、東京駅から始発の新幹線にのり、福島県で取材をしてから再び新幹線に乗りました。強行日程の中、盛岡駅へ到着したのは14時前。すぐに園地に向かいましたが日没間近でした。
岩手山を北に臨み、園地の西側はすぐ山です。内陸性の北上盆地の環境が果樹栽培には最適で、昼夜の寒暖差が大きい土地です。
日没は14時50分。気温が低くても太陽が出ていれば問題ありませんでしたが、15時半にはあまりの寒さに、園地にいられなくなるほど冷え込みました。
山口さんの園地は、盛岡市でも最も早く朝日を浴び、最も早く日没を迎える場所にあります。人間も同様ですが、生物は朝日を浴びることの重要性は良く言われます。
早く寝て早く起きる園地。果樹の園地を多く見てきましたが、朝日を浴びる東向きの園地は素晴らしいものが出来る場所が多いです。
岩手生まれの「はるか」が
収穫のピーク
取材の日は、晩生種の「はるか」を収穫していました。12月になってから出回るりんごで、岩手県を代表する品種の1つ。甘みが強く、蜜入りが良く、果汁があふれ出るような肉質、強い香りを誇る極上のりんごです。
岩手県で作られた品種だけあり、土地に適した品種であるため、山口さんの「はるか」は、それは美味しかったです。大切に袋がけして育てられていました。
園地の裏には、米ぬか、豚糞、木材のチップなどを1年間発酵させた、独自の配合の有機肥料を作っていました。肥料はこの有機肥料だけを使っているそうです。有機肥料を用いることで微生物が多く住む土になります。その土に根を張る木は、栄養を吸収するための根が発達することで強くなります。
木の根は人間の腸と同じで、免疫が集中しています。健康な根を作ることで病害虫に強く、多少の気候変動をものともしない健康なりんごが実ります。
有機肥料だけの栽培はコントロールが難しいのですが、大正時代から続く専業農家の山口さんにとって、果樹の状態の見極めは造作もないことです。
やっとお会いできた山口久昭さん
9〜12月まで20種類以上のりんごを栽培。
「園地は一度廃れてしまうと元に戻らないから。」と、委託された園地の面倒も見る山口さん。
ご家族4人で7haの広大な土地を管理しています。雪が降る前に収穫を終えるために、日没後も収穫作業は続きます。たくさん栽培している中で、今がピークの「サンふじ」「大夢」を食べましたが、どちらも文句なしの出来栄えでした。
岩手県は、青森県、長野県に次ぐ、りんご生産量を誇ります。育種家の高野卓郎さんが手がけた、岩手県オリジナルのロマンシリーズと呼ばれるりんごの他、紅いわて、はるか、もりのかがやき、大夢、など優れたりんごを生み出してきました。
岩手県のりんごは地元以外では、東京を中心とした一部の地域にしか流通していないかもしれません。しかし、厳しい寒さで育ったりんごは、各地で高い評価を得ています。
山口さんのような高い栽培技術をもつ生産者は高齢化から減っており、放棄地が増えている現状もあります。
美味しくて安全な農作物は、お金を出せば食べられるわけではありません。高い意識をもつ生産者がいてこそ。今後も山口さんのりんごを楽しみにしています。
文:(株)食文化 赤羽 冬彦