黒門丸一
梅雨の水を飲んで美味!第一の旬を迎える、産卵前の鱧
大阪の台所 黒門市場のこだわり魚屋
目利き人 由井政伸の技が光る。昭和33年、先代の由井茂が黒門市場に店を構えて、約半世紀・・ 。
高級近海鮮魚にひたすらこだわり、 多くの食通や料理人に 支持され続けてきた黒門丸一。
十五歳で大阪に出てきた、先代 由井茂は高級料亭専門の水産仲卸で十年の厳しい修行を修めた後、丸一の屋号で現在の地に店を構えました。当時の魚市場では、由井茂が通った後には、良い魚は一匹も残っていないとも言われ、魚の目利きでは一目も二目もおかれた存在でした。
その先代に厳しく鍛えられた二代目 由井政伸も、包丁を握って三十年程。近海、特に瀬戸内の魚介類の目利きでは、数多くの黒門市場の鮮魚店の中でも、ひときわ光る存在です。
黒門丸一さんを訪ねて 萩原章史の 黒門市場レポート
地下鉄日本橋駅の出口から黒門市場に入り、すぐの場所に黒門丸一さんはあります。
こじんまりした店ですが、店頭には白甘鯛、アコウ、天然車えびなどが並び、店の前に立っただけで、『この魚屋は手ごわい』ということがわかります。
店に入って、直ぐに感じたことがあります。『魚屋くさくない・・・・』
魚市場でも魚屋でもそうですが、どうしても、生鮮魚介類を丸のままで扱う店は生臭いものです。ところが、黒門丸一さんは不思議とそうした臭いがしません。
淡路島の活け鱧をさばく
一年で二度の旬がある淡路島の鱧
昔から鱧(はも)は『梅雨の水を飲んで美味になる』と関西では言われてきました。 梅雨の頃、産卵前の鱧が一度目の旬を迎えます。
二度目の旬は8月の産卵後、12月からの冬眠に備えて、 食欲旺盛な9月下旬から11月末、鱧は腹皮を黄金色に輝かせ、第2の旬を迎えます。その色から、黄金鱧と呼ばれます。
鱧『ハモ』という名の由来は、古来の蛇を指す言葉、『ハミ』から転じたという説と、大きな口と鋭い歯で噛むことから、『食む』、『歯持ち』が転じたという説が有力です。音はともかく、語源は「魚に豊」、まさに、パワフルで美味な魚を意味する漢字であることは間違いないです。
淡路産の鱧の下処理と骨切り
私が訪ねた時は、まだ卵が入っている最後の時期。由井さんが捌いた鱧にはたっぷりの卵が入っていました。
骨切り技術の発明が、日本人の鱧食文化を生んだ
ある学者がハモの精密な骨格標本を作る為に、鱧の骨を数えたそうです。その数何と3500本。本当に骨の多い魚です。
一寸に24回が理想と言われる骨切り。腕力を使うと、皮までいってしまいます。重たい鱧包丁の自重を使うのがこつです。私も体験しましたが、この鱧包丁があれば、ある程度の料理の素養があれば、骨切りの真似事は出来ると思います。但し、活締めから、骨切りに至るまでの下ごしらえ。これは素人ではまず不可能です。
由井さんは1日20尾の鱧は最低さばくそうです。1尾の骨切りで600回は包丁を入れるので、1日で何と12000回、1ヶ月で30万回近くも骨を切る勘定になります。
『 しゃりっ しゃりっ 』軽快な音、他には例えようのない、これぞ『うまそうな音』です。
淡路島の周囲の海は、 鱧にとっては最高の環境です
鱧の餌はエビやカニや小魚です。淡路島のまわりは餌が豊富な上に、海底に泥がたまり、鱧の生育には最高の環境です。また、海流の激しい外洋の鱧と異なり、瀬戸内の鱧は皮が薄く、骨も細く、特に上質なものとして、市場でも高い評価を得ています。
由良港に揚がった鱧は、 次から次へ競りにかかり、 阪神方面に送られます
黒門市場から少し足を伸ばし、鱧の水揚げが豊富な、淡路島の由良港まで行ってきました。
1尾1尾、延縄で釣りあげた鱧は、生簀で活かしたままで、港に戻ります。
11時半から始まる競りでは、鱧はもちろん、渡り蟹、太刀魚、芝エビ、えぼだい、鯵、タコなど、見事な魚が水揚げされます。さすが、天然の良港の由良です。