鮮度を求めたどり着いた
水車精米・雪蔵仕込コシヒカリ
昔ながらの水車精米が生み出す
美味
シャキッとした歯ごたえにしっとりとした口当たり。噛むごとに押し寄せてくる甘味に加え、糠の香りが嗅覚を刺激する。
とてつもなく懐かしく、そして旨い。
今や消えゆく『水車精米』が生み出す美味だ
新潟県南魚沼の米屋 吉兆楽が鮮度・美味しさを求め復活させた水車精米のコシヒカリ。
何と合わせても食材の旨さを引き立て、単体でも後を引く個性的な旨味を持つ。
単なるノスタルジーではなくそこには美味しさにつながるいくつもの魅力があった。
南魚沼の米を最もおいしく
四方を豪雪の山々に囲まれた盆地地形。ご覧の通り米の栽培できる平地の広さとしては限られているが、春になると雪解け水が流れ込み豊富な栄養と水に満たされた土地となる。土のミネラルと豊富な清流、そして標高の高い場所にある盆地のため寒暖の差が大きく、秋口はしっかりと冷え込みお米の味を高めるのだ。この環境を見れば新潟県南魚沼が世界一米価が高い土地という事も納得できるだろう。
そんな米どころとして名高い南魚沼に、他にない取り組みを行う米屋がある。それが吉兆楽(きっちょうらく)だ。
もともとは大阪にあった米屋が、本物の魚沼産を求め約25年前にこの地で旗揚げをした。
以来真の魚沼産ともいえる「南魚沼」にこだわって様々な米の販売形態にチャレンジしてきた。
90年代のコメ自由化以降米価は下落の一途であるが、そんな中でも生産農家ではなく米屋としての研鑽を重ねた吉兆楽のお米は、相場の2倍以上の価格で取引されることもある。
それは何よりも「美味しいお米」に対する情熱から生まれるものである。
最も特徴的なのは、豪雪地帯南魚沼の自然最大限活用した雪蔵貯蔵。
お米は野菜並みに鮮度が重要な食材で、高い温度にあると玄米の糠層(脂肪)が酸化し、香りや味を損なうことになる。
そこで吉兆楽では南魚沼では初となる本格的な雪室貯蔵庫「雪蔵」を建設。約700トンもの魚沼の雪を貯雪庫にいれ、自然を活用した冷蔵庫を作り上げた。
雪蔵は年間を通じて気温5度・湿度70%のお米の劣化がほとんど起きない理想的な環境を作り上げる。
そのため雪蔵仕込みのお米は、いつでも新米と変わらない鮮度・食味で楽しめるのである。
お米の鮮度を求めて
たどり着いた「水車」
雪蔵で最高の鮮度を実現した吉兆楽のお米は特別な評価を受けるが、それでも満足はしなかった。
近代的な精米機は短時間で多くの米を精米し、近年は技術も高まり精度や美味しさも間違いない技術となっている。
しかし、どうしても熱が発生してしまう。
現代の精米機であれば玄米40kgの精米にかかる時間は10分ほど。しかし、米同士をすり合わせる精米方法では摩擦で熱を発生させてしまう。
さらには風で米を運ぶので、乾燥も進んでしまうのだ。
そこで行きついたのが、鎌倉時代が起源とされ江戸期に盛んになった「水車精米」であった。
水車精米の特徴は、ゆっくりとじっくりと時間をかけて少しずつ白米に仕上げる事だ。
水の重みが歯車を伝い、杵が打ち下ろされ石臼の中で米同士がこすり合わされる。
実にゆっくりとした工程だが、この動きがお米を白米に磨き上げる。
吉兆楽の水車小屋では玄米約40kgで23時間という長い時間をかけて精米を行う。
そのためお米の温度上昇が少なく、また乾燥もしないのだ。
大量生産には向かないが、丹精込めて作られたお米を雪蔵で、新米に近い状態に保ち
その風味や美味しさを精米で極力損なわない製法で届ける。
日本中探してもこれ程の“鮮度”で楽しめるお米はほかにないだろう。
白米にしみた糠が香る
水車精米のお米は味わいも全く違う。
一般的な精米機のように糠を除きながら精米するのではなく、糠も一緒に杵で搗く。
そのため表面にはたっぷりと糠が残り、米の中にも糠油がしみている。
この油がつややかで香り高い炊きあがりを生み出す。
現代においてこれ程の糠の香りがする米には、なかなか出会えないだろう。
昔懐かしく、糠の香りが食材の美味しさを引き立てるのだ。
しっかりと砥ぐことで
完成する
この文を書いている私八尾は米農家の孫なのだが、祖父が作っていた昭和後期のお米に似ている。
あの頃の精米機は粗削りだった。近年は本当に技術が進んで、糠の残りがほとんど無い。
お米は圧倒的に食べやすくなった、だが物足りなさもあった。
最近のお米は“洗米”と言って、水で軽く流せば糠が落ちる。所謂無洗米でなくとも、二から三回の水替えで十分だ。
しかし、このお米は腰を入れて、しっかりと砥がねばならない。「米を砥ぐ」というのも久しぶりだ。
一回目の水は真っ白だった。懐かしい。こういうとぎ汁を植木にあげたり、タケノコのアク抜きで使っていたな…
何度も米同士を擦り合わせて糠を落とす。同時に米を傷つけて浸水しやすくする。
時間をかけて力を込めて、自分の手で白米へと完成させる。
長年お米を取り扱ってきた人間として、とても手ごたえのあるお米だった。
水車精米のお米を
味わう貴重な機会
これほどまでに魅力の詰まった水車精米のお米だが、その維持は並大抵のことではない。
特に水車は水の動きと回転のため劣化が激しく、近年はオブジェの水車も増えたため動力として稼働する水車を作る技術者も限られている。
そして精米を行っても時間がかかるとあり、水車精米で流通するお米を目にすることもとてもまれだ。
それでも、今回我々はこの美味しさを伝えたいと感じた。
懐かしさだけではなく、確固とした旨さに裏打ちされているからだ。
ぜひ一人でも多くの方に知っていただきたい。
南魚沼の美味しさにこだわる
吉兆楽のお米
水車精米のほかにも、吉兆楽の米は魅力的だ。 「雪蔵仕込み」「氷温熟成」さらに「雪温精法」という取り組みも始まる そして吉兆楽のパックごはんも驚きの美味しさであった。 非常時にも美味しい米が食べられる。 『美味しい米を、もっと美味しく』 吉兆楽の送り出す米が、皆さまの日常になれば嬉しい。
(文:ごはんソムリエ 八尾昌輝 写真:八尾昌輝/八木澤 芳彦)