東京発 ヨコ井の酢
横井醸造
“日本一の酢”を目指した醸造法
全国各地に名店・名品はありますが、 東京にも日本を代表する逸品があります。 それが、「横井醸造の酢」です。 もともと、横井醸造の前身は、 明治14年より続く東京・木場の木材商でした。 昭和12年、初代 横井 甕吉社長が、一念発起して、 醸造会社を興したのが始まりです。
今でこそ、横井醸造の看板商品である「真黒酢」は、中国式の固体発酵法を用いています。固体発酵法は、難易度が高く、手間が掛かる醸造法で、横井醸造でも大量生産ができない商品です。
こだわりの “固体発酵法”
「固体発酵法」は、1984年に、2代目 横井 弘社長が、本場・中国の製法を見よう見まねで試行錯誤して始まりました。
『ベンチャーで起業した新規産業には、どうしても“固体発酵法”で黒酢を作り、他社との差別化をつけなければならない』という思いがあったのです。
国内で作られる酢のほとんどは、液体発酵で作られていますが、横井醸造の「真黒酢」は、原料を液体にせず固体の状態で発酵をさせる固体発酵法を採用しています。固体発酵法は、職人が手作業で原料を攪拌して、発酵を促すため、活発な発酵が行われ、芳醇で高品質な黒酢が作られます。生産効率は決してよくない方法ですが、上質な酢にこだわる横井醸造の信念がそこにはあります。
「真黒酢」は、厳選した原料を使い、徹底した温度管理のもと、数ヶ月の発酵期間を経て、長期熟成に入ります。根気のいる作業に熟練の技が要されます。生産コストが低い中国では容易な醸造法であっても、時間を掛けて安全で安心できる商品を国内で作り上げるには、実にコストの掛かる製法です。
こだわりの「固体発酵法」に光を当てた横井醸造の黒酢は、成熟度が高く、旨みが凝縮され、今や黒酢の中でも最高級品となりました。
「真黒酢」のアミノ酸含有率は、通常の米酢の5倍以上あります。酢独特のツーンとした酸っぱさを感じさせない、驚くほどまろやかな味わいです。
大量生産できない「真黒酢」を飲用されるファンは、軒並み増えている現状に、横井社長は、「多くの方にご提供できないのが残念」と話します。
日本一の酢を作るため、難しい醸造法に取り組んでいる「横井醸造」は、今や都内の寿司屋のうちのほとんどが、横井醸造の酢を使っていると言われるほど、関東一円の江戸前寿司店には欠かせない醸造元です。
最近では、プロ使用のお酢をマヨネーズ製造メーカーやドレッシング製造メーカーに卸すだけでなく、個々の寿司店から、独自の調合を施して、その店 オリジナルの酢を作っている横井醸造。 今やプロからの惹き合いだけでなく、一般家庭にも利用される商品ということになれば、健康意識が高まっている証とも言えます。「酢」に対する日本人の食文化との関わり方は益々深く繋がり合っていくことでしょう。
(文・株式会社 食文化 代表取締役社長 萩原章史)