白神山地が育む極上じゅんさい
水沢川に注ぐ沢の水 とても清らかでまさに飲めるようです。
この水を引いた沼を笹本忠雄が造ったのは1978年頃、
春夏秋冬 絶え間ない手入れが極上のじゅんさいを育てます。
標高843mの水沢山を中心に広がる、約3000haの深い森
古来より、水量の増減は激しい水沢川を治める為に、村人はぶなの森を大切にしてきました。樹齢は長いもので三百年。そんな深い森が水沢川流域に広がります。 今では過疎化が進み、水沢川の上流域には人は住んでいません。
廃屋と耕作放棄地が点在するそんな奥地に、笹本忠雄のじゅんさい沼はあります。(写真右:笹本忠雄さん)
1978年頃 笹本さんはじゅんさい沼を造った
減反政策に従い、笹本さんが棚田をじゅんさい沼に変えたのは1978年頃。 じゅんさい主産地の森岳からじゅんさいの苗を譲りうけたものの、作り方は誰も教えてくれなかったそうです。それから笹本さんは自分なりに工夫を重ね、上質なじゅんさいを収穫できるようになりました。
1978年頃にじゅんさいを植えたきりで、笹本さんは植え替えをしていません。 一般的には地力の衰えなどで、数年に一度は植え替えをしますが、植え替えをしないで、良質なじゅんさいを採り続けられるには理由があります。
活きた清らかな沢の水
笹本さんのじゅんさい沼を訪ね、沼の水源を見てきました。水沢川の小さな支流から水を分岐し、10mほど導水しているだけです。川には魚が泳ぎ、本当に美しいです。 じゅんさい沼と人は呼びますが、笹本さんのこの沼は、沼という汚れを若干感じさせるイメージとは程遠いです。活きの良い水が、極上のじゅんさいを生む必須条件です。
春夏秋冬 笹本さんはじゅんさいに愛情を注ぎます
雪が解け春になると雑草との戦いが始まります。じゅんさいに農薬や除草剤は禁物です。笹本さんはひたすらに手作業で雑草を取ります。
夏はじゅんさい摘みと雑草(水草)の除去に追われます。
秋は水沢山に入り、じゅんさいの肥しとなる山の土を集めます。
それを、厳寒期に分厚い氷が張ったじゅんさい沼にまきます。
この土は雪解けとともに沼に降り、じゅんさいに新たな栄養を与えます。
つまり、人工的な肥料ではなく、限りなく、自然にちかい糧をじゅんさいに与え、
毎年、笹本さんの極上じゅんさいは育ちます。
ぷるぷるが豊富で色白で、
うぶな歯ごたえの笹本さんのじゅんさい
じゅんさいは産地ごと、正確には沼により品質が違いますが、私がこれまでに食した多くのじゅんさいと比較して、笹本さんのじゅんさいは違いがあります。
何といっても、透明なぷるぷるが多いです。私が笹本さんを訪ねた時、じゅんさいの現物を見ながら、そのことを訪ねたら、笹本さんの返事は『あんまり、多過ぎでも食べにくかろう……(笑)』でした。
いえいえ、そんなことはないです。やはり、じゅんさいの命はぷるぷるです。
茎の色は少し薄めで、歯ごたえ(シャリ感)は少し優しい感じで、『噛んだ瞬間に飲み込みたくなる感じ』です。
やっぱり、本物のじゅんさいは鍋に限る!
初夏の暑い頃、じゅんさいは鍋で食すのが最高です。笹本さんのじゅんさい鍋の場合、脇を固める鍋素材にもこだわりがあります。
上質な比内地鶏はもちろんですが、山菜のミズはじゅんさい沼の裏山から笹本さんが採ってきたものを丁寧に下ごしらえし、だまこ(うるち米の餅)は笹本さんが天日干しで仕上げたお米(あきたこまち)が原料です。
比内地鶏の鶏がらスープは、たっぷりの野菜と秋田の地酒を加え2日かけて作っています。長期保存を考えていないので、加熱・加圧処理をしないで、冷凍でお送りします。加熱・加圧処理すると、風味が飛んでしまうからです。
このスープが夏の秋田の美味を上手にまとめてくれます。鍋はスープの最後の一滴まで堪能できます。
じゅんさいは食べる分ずつ鍋に入れる
先ずはスープを鍋にはり、温めます。沸騰したら、だまこと比内地鶏を入れ、再度沸騰したら、山菜のミズをいれます。煮たってきたら、一度に食べる分だけのじゅんさいを入れます。決して、じゅんさいを煮込んではいけません。
じゅんさいに軽く火が通ったくらいでOKです。暑い時に熱いもの、これが身体にしみます。
旬の生じゅんさい これは夏野菜です!
秋田ではじゅんさいを夏の野菜として、色々な料理に入れます。味噌汁、蕎麦はもちろん、冷やし中華にも入ってきます。酢を控えめにして酢の物も良いです。
瓶詰めの小さな芽だけの高価なじゅんさいとは別物です。
生のじゅんさいは低カロリーの夏の野菜です。ほとんどが水と言っても過言ではないじゅんさい。せっかく食べるのであれば、白神山地の活きた水で育った極上品を食べたいものです。笹本爺と白神のめぐみに感謝して頂く じゅんさい鍋 最高です。
(文・株式会社 食文化 代表取締役社長 萩原章史)