みちのくの小京都 角館の極上いのしし
長いものでは2〜3年もの時間をかけてじっくりと育てられる日本猪 血統は丹波篠山の直系 脂も赤身も臭みはなく、肉と脂の魅力がストレートに伝わる美味 フランスのビゴール豚、スペインのイベリコ豚やバスク豚を彷彿させる魅力 ぼたん鍋はもちろん、ステーキや焼き肉も最高
苦節20数年 いのしし飼育にかけた阿部宗弘
みちのくの小京都と呼ばれる角館から程近い山中に、阿部宗弘さんの猪飼育場はあります。 異業種(建設業)から猪飼育に取り組んで20数年、育て方が分からず、失敗の連続でした。
そもそも、何故?猪飼育に転身したのか・・・・・
阿部さんは、現在の猪飼育場を建築した当人です。発注者が倒産し、未収金の代わりに、猪飼育場を引き継ぐことになってしまったそうです。
『なってしまった・・・』と表現するには理由があります。
猪の飼育業者が倒産した時点で、飼育場にはたくさんの猪がいました。
『餌やらねば、死んでしまうし・・・殺すのもかわいそうだし・・・結局、おらが飼うことにしだ・・・・』 阿部さん談
そもそも、秋田には野生の猪が生息しておらず、食べる習慣がありません。
飼育が軌道に乗っても、食べる習慣がないので、売れませんでした。その為、長い間、商売にならない日々が続きました。
そこで、阿部さんは奥さんと2人で猪肉を串に刺し、各地の祭りに出向き、改造車の屋台で販売することで、生計を立てることになりました。 何かにつけて祭りが好きな秋田人、秋田では365日どこかで祭りがあるといわれるほどです。猪を食べる習慣はなくとも、祭りが多いので、阿部さんは救われたのです。
阿部さんの猪は2〜3年かけて濃厚な美味に育ちます
狩猟の猪と違い、きちんと処理された猪の肉は臭みがありません。
『猪肉は臭いよね・・・味噌味で煮込まないと食べられないよ・・・・』などと言う方は多いですが、それは全くの誤解です。
阿部さんは猪を2〜3年もかけて育てます。出荷する頃には、120kg〜150kgほどの大きさになります。狩猟の猪ではこれだけ大きいものは非常にレアです。 餌は配合飼料に地元で採れる栗、さらに少しの木炭を混ぜています。詳細は秘密ですが、餌の工夫も阿部さんの猪肉が美味な理由です。
猪肉は何故高価になってしまうか?理由は単純。飼育に時間がかかるからです。
豚の場合、生後6か月で枝肉が70kg〜80kgも取れますが、猪の場合は、同じ量の肉を取ろうと思ったら、2年以上は必要です。
また、2才以上の大人に育つ率はせいぜい5割です。猪はとても神経質でストレスを感じると死んでしまいます。また、病気にも弱く、さらに、仔猪が物音に驚いて暴れた母猪に踏まれて死ぬことも多く、どうしても、生産コストが高くなります。
スペインのイベリコ豚 フランスのビゴール豚やパルマ豚を彷彿させる美味
猪肉はとても美味です。赤身が濃厚なのはもちろんですが、脂身が非常に美味です。
一番近い肉のイメージは、フランスのビゴール豚か、スペインのイベリコ豚です。どちらも、世界の食通を魅了する豚肉の最高峰です。安部さんの猪肉はどちらの豚肉とも勝負できますし、脂身の印象はバスク豚の脂を彷彿させます。
よく考えてみれば、そもそも豚は猪です。イベリコ豚の最高クラスのベジョータでも飼育月数は16か月とか17か月、他の有名なブランド豚でも1年前後です。 この猪は2年、長いもので3年です。味が濃くなるのも当然です。野趣あふれる味ではなく、洗練された美味であることは間違いないです。
ステーキ、ぼたん鍋が一押し! 脂を生かす料理は特に美味
シンプルに焼いて食べるが猪を味わうには一番ですが、炭火焼きか、石のプレートなどでこんがり焼くのがポイントです。
香ばしく焦げ目がつくと、そのインパクトは強烈です。
シンプルな昆布出汁と辛口の味噌を使って、たっぷりの根菜類と葱でぼたん鍋も最高です。
不思議と温まり方が違います。
滋味豊か!まさにそんな味わいです。
株式会社 食文化 代表 萩原章史