長崎県佐世保 させぼ温州の血筋と厳しい生産管理が究極のみかんを生む 西海みかん
味まる、味っ子、出島の華。 数々のブランドみかんを生みだす西海みかん。 そんなブランド産地でも、止まらない農家の減少。 最先端の生産管理と、地道な農家の育成と経営指導活動。 量ではなく、一歩一歩着実に質を追い求める姿勢が、 西海みかんの強さの源です。
佐世保の西海みかんの歴史は挑戦者の歴史
温暖な気候と豊富な太陽に恵まれているものの、複雑な入り江と島が集まり、標高は最高部で200メートルそこそこ。これといった川もなく、米作りには適さない場所です。
今でこそ最高のみかん産地としての評価を確立した佐世保の西海みかんですが、40年以上前、現在のハウステンボス周囲に広がる土地で収穫されるみかんは、とても一流とは言えない評価が定着していました。
『一流でないから、値段もそれなり』
そんな佐世保のみかんの評価を上げ、ブランド化する為に栽培農家たちが団結したのが、今の西海みかんの源流です。
幼木の『させぼ温州』から熟した濃厚なみかんを生む技術
温州みかんは一般に10年以上の成木から、美味しいみかんが収穫されます。若い木(幼木)は樹勢が強く、思うようにコントロールすることが難しく、味の乗ったみかんを作るのが難しいといわれています。
ところが、西海みかんは、あえて幼木を中心に栽培をしています。つまり、我儘で活発な幼木を手なずける技術があって、西海みかんは最高レベルの産地としての評価を得ています。木が若いので、コントロールするのが難しい反面、木に活力があるので、天候不順や裏作の年でも美味しいみかんを作ることが可能です。
但し、その為には、計画的にみかんを改植し続けないとなりません。当然、若木がみかんをつけるまでの期間、生産量は下がります。この若木指向も、西海みかんが量よりも質を追い求めている証です。
昭和50年に発見された『させぼ温州』
昭和50年、佐世保の尾崎さんのみかん畑で、枝変わりとして、偶然、発見されたのが、現在の主力品種のさせぼ温州です。
全国で広く栽培されている宮川早生の突然変異ですが、病気に弱く、栽培が難しいので、実際に栽培されるようになるまでには、長い時間が掛かりました。
品種改良の苦労
させぼ温州は病気に感染した状態で栽培が難しく、実際に生産現場に導入されるまでには、多くの改良が積み重ねられました。
先ずはウイルスの感染をなくし、その後さらに、病気になりにくいような地道な改良が行われ、平成8年、ようやく佐世保のみかん畑に『させぼ温州』が導入されました。
ヤマアラシのように伸びる、させぼ温州の葉
遠めに見ても、させぼ温州はわかります。濃い緑の小さめ葉が盛んに茂り、それも天に向かって伸びている様は、まるでヤマアラシのようです。
当然ですが、1個の実に対して葉が多いほど、光合成の成果物が蓄積されます。
つまり、葉っぱが密集するほど強力なみかんを生みます。
させぼ温州は濃い色と高糖度、そして濃厚なうまみが特徴で、 栽培は難しいものの、その潜在能力は極めて高いです。
徹底的な水分コントロールと日射量の確保
西海みかんの畑の特徴は、そのほとんどに白いシート(マルチ)が被せられていることです。このマルチの役割は大きく分けて2つ。ひとつは雨が直接みかん畑に浸み込むことを防ぎ、水が苦手なみかんの水をコントロールする役割です。
もうひとつはマルチに反射した太陽光がみかんの着色を良くします。
西海みかんはシートマルチ被覆率が90%を超え、ほぼ、全てのみかん園地は水分コントロールされています。この数値は驚異的と言えます。
さらに、佐世保のみかん畑の大きな特徴は、人工的な傾斜と雨水の流れる溝、そして、みかんの木の列の横間隔が広いことです。この特徴は2つの意味があります。
傾斜と溝により、雨が降っても、畑に浸み込む量が減り、マルチによる被覆効果を高めます。また、列の幅が広いので、みかんの木に十分過ぎるほどの日射量が確保できます。さらに、作業用のトラックなどが、直接みかん畑に入ることができるので、作業効率は飛躍的に高くなります。
ただし、結果的に、単位面積当たりの収量は落ちますので、量を犠牲にして、味を取っていると言えます。
もちろん、肥料にもこだわります。
西海みかんでは、有機質の肥料を主力に、味の良いみかんを作る為に肥料にも徹底的にこだわっています。各農家が好きな肥料を使うことを許さず、最適な肥料の使用を徹底しています。
最新の選果システム
みかんの選別を徹底するだけでなく、生産現場にデーターをフィードバック
平成19年に完成した最先端技術を集めた選果場は、西海みかんの品質管理をさらに高めています。
先ずは各農家が収穫したみかんが選果場の1階に集まり、2階の直線で100メートル近いラインの選別システムに送られます。もちろん、この時点で既に各農家は厳しい選別基準に基づき、不良みかんを排除しています。
3台の最新のセンサーが西海みかんを外から丸裸にします。
先ずは人間の目で規格に達しないみかんを弾き、最初の光センサーで糖度と酸度をチェックします。2台目のセンサーには4台のカメラが搭載され、みかんの4方向を瞬時に撮影します。そして、最後の3台目には2台のカメラが搭載され、みかんをカメラの手前でひっくり返し、2台目のセンサーで写っていない2方向を写し、みかんは完璧には裸にされ、仕分けの流れに乗ります。
つまり、色・形・重さ・傷、もちろん、糖度と酸度により、西海みかんは徹底して選別されます。
また、実際の農家ごとの計測数値は各農家にフィードバックされるので、各農家は事実に基づいて、生産技術の改良に取り組むことが可能になっています。
究極のみかん『出島の華』は最先端技術で選別して、最後は人の目と手で再選別
これだけの最新技術を駆使しても、究極のみかんと呼ばれる、『出島の華』クラスについては、最後に人間の目でチェックをし、究極の名に恥じない品質を実現します。
西海みかんの総生産量1万トン前後から、出島の華は僅かに4%前後しか選ばれません。まさに、究極のみかんと呼べる逸品です。
西海みかんは3つのブランド
西海みかんではブランドごとに栽培園地を区分けして管理しています。
最高ブランドの『出島の華』は最低糖度が14度、次のランクの『味っ子』が13度以上、その次の『味まる』ですら、糖度は12度以上です。
選別基準は糖度だけではなく、先ずは各みかん園地がどのブランドを栽培するかを申請登録し、それぞれのブランドに応じた栽培方法が厳しく定められています。
さらには、定期的な品質チェックを受けることで、ブランドとしての品質管理を徹底しています。
西海みかんの “ブランドを支える人々”">
させぼ地区柑橘部会の構成員は大雑把に分けると、40歳未満が三分の一、40歳〜65歳未満は三分の一、65歳以上は三分の一だそうです。
温州ミカン生産だけでは、年間を通した雇用は不可能です。結果的に、兼業農家はもちろんですが、様々な人たちの異なった人生設計が成り立つように、西海みかんでは様々な取り組みをしています。
年金世代であれば、徹底的な品質追求が可能かもしれませんが、子供や住宅ローンを抱えた世代であれば、生産規模の拡大が必要かもしれません。
その為には、農業経営の指導も必要であるし、農業法人化なども検討する必要があるかもしれません。
新しい時代の日本の農業の姿が、西海みかんにはあります。
量より質、そして、経営としての農業。最強のみかん産地は生産技術だけでなく、経営技術も磨いていました。
【写真右】させぼ地区柑橘部会長の永田茂文さん(左)と私(萩原)。後ろに見えるのが佐世保の電波塔(針尾送信所)
㈱食文化 代表取締役 萩原章史