愛媛県石鎚地区で江戸時代から続く
微生物の力で作る貴重な後発酵茶
石鎚黒茶
国重要無形民俗文化財指定

石鎚黒茶は霊峰石鎚山の大自然と
乳酸発酵が生み出す
国内でも唯一無二の二段発酵茶

石鎚黒茶は愛媛県西条市の石鎚山麓の集落を中心に、江戸時代から代々受け継ぎ生産されてきた、独特の酸味を持つ後発酵茶です。現在では、石鎚山麓での集落内の生業としては途絶えたものの、その製造技術は西条市内で受け継がれています。
お茶には茶葉自体に含まれる酸化酵素によって発酵させる製法の違いにより、不発酵茶(緑茶)、半発酵茶(ウーロン茶)、発酵茶(紅茶)に分類されますが、これらとは作り方が異なり、微生物の力で発酵させて作るものを「後発酵茶」または「微生物発酵茶」と呼びます。
後発酵茶は世界的にも珍しい製法で、中国の雲南省でつくられるプーアール茶のほか、日本国内には愛媛県の石鎚黒茶、高知県の碁石茶、徳島県の阿波晩茶、富山県のバタバタ茶の4か所しか存在しません。その中でも石鎚黒茶と碁石茶はさらに珍しい「二段発酵茶」で、世界でも四国にしかない極めて独特なお茶です。
これらの後発酵茶の製造技術は、日本列島の食文化を考察する上で貴重であるとして、平成30年3月8日に無形民俗文化財に指定されています。
1996年には製造技術者が
一人まで減少
地元の有志が石鎚黒茶の
文化継承に立ち上がった

石鎚地区では家庭の日常のお茶として、当たり前のように石鎚黒茶が飲まれていましたが、地区内での緑茶の消費が伸びたことや、緑茶工場を作ったことなどが影響して、黒茶離れが進んでいきました。
1996年(平成8年)には、石鎚黒茶の製造技術保持者が最後の1軒まで減少し、絶滅寸前となります。
この危機的な状況を知った、地元西条市の愛媛県生活研究グループの団体のひとつ、さつき会などの地元の有志が「石鎚の古くから伝わる貴重なお茶を絶やしてはならない」と存続に向けて立ち上がりました。
石鎚地区の曽我部正喜氏が長年継承してきた製法を学び、行政や愛媛大学の力も借りながら文化の継承に取り組んできました。加工施設が使えなくなったことや地主が茶畑を売却したことにより茶葉の確保ができなくなったことなど、いくつもの苦労があったと戸田代表は話します。
石鎚地域の文化を絶やしてはいけないという強い気持ちで、約30年かけて石鎚黒茶を復活させました。
夏の炎天下のなかすべての工程を
手作業で行い
発酵と太陽の下での天日乾燥で
黒い茶葉に仕上げる


石鎚黒茶づくりは、7月から8月にかけて炎天下の中で行われます。
茶葉を山から切り出し、枝葉を切りそろえて洗浄、数時間こまめに様子を見ながら蒸し加熱をした後、発酵用の木桶に詰め込み山へ運び、石鎚の大自然に預けます。

山では、桶に住み着いた天然の微生物と糸状菌による好気発酵での一次発酵、乳酸菌による二次発酵を行います。二段階における発酵の間には手揉み作業があり、どの工程も大変な手間と体力が要ります。その後、太陽の下での天日乾燥を経て、石鎚黒茶が仕上がります。
深い香りと品のある酸味で
スッキリとした味わい
健康機能性に注目して
毎日飲むのがオススメ

石鎚黒茶は二段発酵させることによる独自の深い香りと品のある酸味が持ち味です。夏の暑い時でもスッキリと飲めます。
また、石鎚黒茶は抗アレルギー効果、スギ花粉症緩和効果、IgE(アレルギー症状を誘発する免疫タンパク質)産生抑制効果、脂肪蓄積抑制効果といった健康機能性があることが、愛媛大学の研究によって明らかになっています。
ぜひ家庭の日常のお茶として取り入れてみてください。
石鎚黒茶の美味しい味わい方
【急須】
急須(100ml程度)に茶葉を2g入れて、沸騰したお湯を注ぎ、30秒から1分置いてお飲みください。
【煮出し】
沸騰した熱湯1Lに茶葉3〜4gを入れ、1〜2分煮出します。その後、火を止めてから約30分置いてお飲みください。
【水出し】
水500mlに茶葉2gを入れて、冷蔵庫で8時間程度置いてからお飲みください。
文:食文化 植竹
撮影:八木澤芳彦